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夢見るたまご 9

まだ寒さの続く今日この頃、家で過ごす時間がどうしても長くなる。
窓際で庭にやってきたココガラの数を数えている小さな二匹の子達はチマとチキ。
訳あって親のいないポケモンの卵にぼくとパートナーのキバナさん、
それぞれの遺伝子が融合して生まれたドラゴンポケモンと人間のハーフ。
ポケモンの研究機関に許可を貰ってその二匹をぼくらの家で育てている。
結婚してしばらくが経ち、この家とシュートシティでの生活にも慣れてきて、
二匹にとっても勝手知ったる我が家になってきたみたい。
二匹のうちぼくに似ている方が、ドラパルトのハーフで名前はチマ。
キバナさんに似ている方がオンバーンのハーフでチキ。
“ち”いさい“マ”クワのチマと、“ち”いさい“キ”バナのチキ。
どちらもキバナさんによるネーミングだ。
今日もチマとチキの何気ない日々を記録していきます。

2月1日
二匹の体が成長していく事を想定して籠ベッドより大きいものをと、幼児用のベッドを購入した。
今の二匹には走り回れる程の大きさだけど、もし進化する事があったりしてもこれで間に合わせられるのではと思う。
ポケモン達用にいくつか空けてある部屋の一室にベッドを設置する。
この部屋はもう実質二匹の子供部屋みたいなものかな。
二匹とも新しいベッドに興味津々だ。
しばらくは今までの籠ベッドと併用で慣れさせよう。
枕側に囲うようにパネルがあるベッドを二匹が船に見立ててごっこ遊びをしていた。

2月2日
新品の毛布が届いた。
ふかふか具合を確かめていると、チマが真似して毛布を揉みだした。
チキが派手にダイブしてキャッキャと笑いながらゴロゴロしている。
チマもチキの真似をして転がり出す。
毛布の片側を少し持ち上げて坂にすると二匹が高い方に登ってはそこからコロコロと転がっていく。
ひと通り遊んだ後、二匹でくっつき合ってすやすやと寝息を立て始めた。
毛布をそのままにしてしばらくそっとしておくと、起きてからは毛布をローブみたいに被って遊んでいた。
どうやら占い師ごっこらしい。

2月3日 キバナさんのスーツのポケットが破れてしまった。
キバナさんが裁縫道具を取りに行っている間にチキがポケットの穴に足を入れて
「おふとん……」と言いながら横たわっている。
キバナさんがチキをそっとポケットから出してぼくの手に乗せたら、チキがボソッと「とりつくしまがない……」
と呟いたのに笑ってしまう。
チマはふわふわ飛行して遊んでいた。

2月4日 今日は朝からナックルジムでジムチャレンジの試験があるためテレビをつけて中継を流しっぱなしにしている。
ナックルのチャレンジはぼくが送り出した選手が挑むのでそういう意味でも楽しみだ。
ジムチャレンジで二人の選手が勝ち抜いたところで、ナックルジムリーダーとの試合が始まった。
キバナさんが戦う姿はやっぱり格好良いなぁ……。
今回勝ち抜いたのは一人だった。次あの選手と戦うのはセミファイナルトーナメントだ。
チマとチキが手を大きく広げてダンスのような仕草をしている。
砂嵐のマネらしい。

2月5日 今日は朝からカレー作りをしている。
このところチマとチキが食事も大人と同じものが食べたいと言い始めたからだ。
甘口で作って分けておいて半分辛口にする。
そしてまずは辛口を出してみる。
これがからくち……と二匹がまじまじとカレーを見つめ、
本当に大丈夫かぁ〜とキバナさんがちょっとからかいながら二匹を見守っていると、
チマがぱくっと一口食べてしまった。
「ぴぃ」
舌をぺろっと出して涙をポロポロ出しているチマに慌ててミルクを飲ませている間に、
チキが辛口カレーをたっぷり口に含みフリーズしてしまっていた。
キバナさんがチキにもミルクを飲ませようとした時、
チキが「ひえ〜」と言いながらユラユラ揺れたのを見てクックッと笑っていた。
二匹がミルクを飲み干したところで甘口のカレーを出してあげるとホッとした様子で食べていた。
辛いものはまだまだ早いみたいだね。

2月6日
録画を再生して前期トーナメントの試合を見ていると、チマとチキがぼくの膝を交互にツンツンとつついてくる。
「どうしたの?」
「ぽけもんばとるかっこいい!」
「やりたい!」
二匹がテレビに映っている試合を指差して興奮していると、
一緒に試合を見ていたガメノデスとギガイアスが付き合おうか?という顔でこちらをじっと見てくる。
「え、い、いや、ダメダメ。まだ危ないから……」
慌てて断ると二匹はブーブー言いながらソファーの上でぴょんぴょん跳ねる。
ポケモンバトルをやりたいという二匹の意欲に少し驚くと同時に、
時が経つにつれて興味の幅が広がっている事を感じる。
「まずはお勉強しようね」と子供向けのバトルの基礎が書かれた絵本を開くと
二匹はひとまず納得してくれたみたいで読み聞かせを真剣に聞いていた。
この絵本はつい最近キバナさんがそろそろ必要になるかもと買ってきて、
その時はそんな気の早い……と思っていたのだけど、まさかこんなすぐに出番が来るとは。

2月7日
今日はキバナさんがオフなので彼が朝からチマとチキのお世話をしている。
ジムで仕事をしているとキバナさんからメッセージで今の様子を写真で送られてきた。
二匹がチェス盤の上でチェス駒をフリーダムに並べて遊んでいる。
「ちなみにオレさまもルールを知らない」という言葉が添えられていた。
正直ぼくも詳しいとは言えないけど、基礎ルールくらいなら教えてあげられるかな。
2枚目の画像が送られてくる。
チェス駒達が組体操みたいになっていて、縦に積まれたオセロの駒が柱みたいに追加されていた。

2月8日
チマが歌を口ずさんでいる。
聞いた事がないリズムだから新しく作ったようだ。
歌詞が気になって耳をすませてみる。
「どらごんたいぷのぽけもんちゃんは〜」
「じつは♪じつは♪」
チキも合いの手を入れる。
「はんぺんがだいすきで〜じぶんでもつくるー♪」
「ひでんのあじはひみつです〜」
「きまぐれだから〜きまぐれだから〜」
「はんぺんのいろはさまざま〜」
「こおりはしろで、ほのおはあかいの」
「おつきさまにおねがいしたら♪」
「ひかりのなかからでてくるの♪」
「でもそんなことしなくてもーはんぺんはふだん〜」
「かんとーちほうのみぎのとなりのしたのほう」
「おかいものかごふりふりしたら♪」
「にょきにょきはえてくる♪」
「生えませんよ」
「はえるもん!」
「はんぺんたべたい」
この子達ははんぺんの事を何だと思っているのだろう……
とりあえず外出中のキバナさんに「はんぺん売ってたら買って来てください」とメールを送った。
キバナさんはスーパーで輸入品セールコーナーを見つけたらしく大量に買ってきた。
……こんなにはいらない。
チマとチキは大はしゃぎだ。

2月9日
曇り空を眺めているとチマが抱っこしてほしいとせがんでくる。
ブランケットをお包みにして抱っこすると、小さな声でたまご、たまご……とチマが口ずさむ。
何の歌か聞いてみると、卵の中でポケモンが皆歌っている歌だと言われた。
ひたすらたまごと繰り返すだけの不思議なメロディの歌、
けれど不思議と惹かれて、いつのまにかぼくまでその歌を口ずさんでいた。

2月10日
二匹の健康診断の為に研究所へ。
自分達の事が書かれているカルテに興味津々。
何が書いてあるか説明してもらっている二匹がふんふん、なるほどとわかった風な顔をしている。
今までキッチンスケールだった体重測定が、今回から小型ポケモン用の体重計に変わった。
大きくなってきているのかなぁ。
帰りに最近研究所が監修したらしいドラゴンタイプ向けのおやつの試供品を貰った。
家に帰ってさっそく食べ出した二匹が「これはやせいがめざめるあじですなぁ」などと言っていて吹き出してしまった。

2月11日
チマとチキがドームベッドの中で秘密基地ごっこをしている。
毛布でトンネルを作って、クッションの中央にはなにやら窪みが作られていて、二匹は楽しそうに遊んでいる。
毛布のトンネルはテントに変わって、先程作られていた窪みはテントの内装になっていた。
焚き火の形をしたライトも置いて、洞窟内のキャンプ地みたいになっている。
ミニマシュマロを小皿に入れて差し入れると焚き火でマシュマロを炙るフリをして仲良く食べ始める。
「うーん、なまのましまろのあじ」
それはそう。

2月12日
二匹用の新しいベッドは今のところお昼寝の時によく使われている。
それとベッドを船にした航海ごっこもお気に入りのようだ。
「おふねになまえつけよ」
「うーん、なまえ……」
「あっ!」
チマが布団と毛布、それぞれ濃さの違う黄色を見比べてハッとする。
「ちーずおむらいす!」
「ちーずおむらいすごう?」
「うん!」
「いいなー!じゃあちーずおむらいすごうにのろう〜」
「わーい!」
チマが枕に上り、2本持っていた小さな旗をチキにも渡す。
二匹で旗を振りながら「しゅっこうー!」と楽しそうにしている。

2月13日
チマとチキが今日も航海ごっこをしている。
テーブルの上で描いた地図を手にチーズオムライス号こと自分達のベッドに乗り、
プール遊び用の浮き輪を椅子にして会議をしている。
「このちずのまんなかのしまにはひみつがかくされている……」
「どきどき……ぼくらでもたどりつけるかな?」
「うーん……」
地図を指でなぞり、辿り着くためのルートを模索しているようだ。
二匹で地図上のバツ印をいくつか消しては新たに書き足していた。

2月14日
チマとチキは日に日にお喋りが上手になっている気がする。
その成長速度にいつも驚かされるけど、
もしかしたら今の姿ももう少ししか見られないのかもしれないと思うと寂しい気もするし、
この姿をしっかり目に焼き付けておきたいとも思う。

2月15日
庭に霜柱が出来た。
チマとチキの軽い体では、霜柱の上に余裕で乗れてしまうようだ。
土の少ない綺麗めな部分を少し崩し取って二匹に見せてあげると、
小枝のような細い氷を手に取り太陽の光にかざしてみたりと興味津々だ。
「きえー」
「ひえー」
氷を触って冷えた手を擦り合わせながら二匹が笑っていた。

2月16日
二匹がチェス盤の上でオセロの駒を積み上げて山にしているのをキバナさんが見守っている。
「これは何なんだ?」
「しんさくのしろいおおきなおもちをつくってあそんでた」
チキがフンスと得意気になってキバナさんに説明している。
一方チマはその白い面だけで構成された駒の山……
もとい、おもちの周りをぐるりと囲むようにチェスの駒を配置する。
「これおもちたべにきたひとたちです」
「なるほどなぁ」
おひとつどうぞと二匹がぼくらにオセロの駒を一つずつくれた後、チェス駒達にも配っていた。

2月17日
二匹が自分達の部屋で歌を歌っている。
「ぽけもんず・ごーごー」と教育番組で聞いた事のある歌を歌いながら自分達のベッドの上で踊るようにくるくる走り回っている。
しばらくすると逆回転になり、そして歌い終わりと共に二匹揃ってベッドにダイブする。
「せかいがまわる」
「くるくるる」
楽しそうに笑いながらしばらくベッドでゴロゴロしていた後、ぼくを見て「みてた?」と聞いてきた。
見てましたよと伝えると、二匹はキャー!と言ってはにかみながら布団に潜り込んでしまった。

2月18日
日暮れ近く、チマとチキと庭の家庭菜園の様子を見ていたら、低木の隙間からネマシュが現れた。
首を傾げるネマシュの真似をする二匹、しばらく見つめ合っている。
「きれーなはねくれた!」
三匹は何か通じ合ったらしく、ネマシュが二匹にプレゼントをくれた。
「おかえしする!」
チキが部屋に飛んでいき、ポフィンを一つ持って戻ってきた。
「これあげますえっと……ぽ」
「ちき、がんばれ!ぽ、ぽぴ」
二匹はポフィンが上手く言えないので苦戦している。
ネマシュはつぶらな瞳で二匹を見守っているようだ。
「ぽ、ぽ……」
「「ぽ、ぽひぃぃん〜……」」
二匹が同時に自信なさげに発した声は弱々しく黄昏の空に吸い込まれていった。
ネマシュが傘の隙間に器用にポフィンを挟んで、ペコリとお辞儀をして帰っていった。
「……喜んでいたみたいですね、きっと気にしていませんよ」
二匹はポフィンが上手く言えないのを初対面のポケモンに聞かせてしまったのが恥ずかしいみたいだ。
「ぽぴぃん……」
「ぽひゅ……」
室内に戻るなり、貰った羽を抱えながらソファーに寝そべってアンニュイな感じで天井を見つめている。
「ありゅぴゃぺっぺとぽぴんはしゅくてき……」
「うむ……」
何か決心した顔で頷き合う二匹、滑舌を良くしたいのかな……でも、
「ありゅぴゃぺっぺって何だ……」
「アルファベットだよ」
ぼくが呟いた瞬間、仕事から帰宅していたキバナさんがぼくの疑問に訳知り顔で答えてくれた。
アルファベットに何があったというのだろう……

こんなところかな。
今、二匹は最近お気に入りのペリッパー便のCMソングをアドリブのダンスを踊りながら歌っている。
二匹が寛ぐ用に置いてある1人掛けソファーは、まだまだ小さい二匹にとってはちょっとした遊び場だ。
チマががま口のポーチをパクパクと開閉させるとチキがリズムに乗りながらそこにお菓子を詰めていく。
あなたの町のペリッパー♪と声を揃えて歌い切ったので拍手してあげると、
二匹は先程のポーチからチョコを取り出してぼくにくれた。
「おとどけものです」
「ありがとうございます」
二匹は満足したようで、ポーチのお菓子を食べ始めた。
今日も元気だね。

というわけで、またそのうちお会いしましょう。