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夢みるたまご -海色の夢-

きゅるる、きゅるると楽しそうな鳴き声を発しながらテーブルの上に座った手乗りサイズの小さな生き物が尻尾を振っている。
こいつはチマ、恋人のマクワの髪が偶然ポケモンの卵の孵卵器に入り込み産まれた人間とドラパルトのハーフだ。
ポケモンの研究機関に許可を貰ってうちで育てている。
「チマ」
名前を呼ぶときゅるんと鳴いてこちらを向き、オレが差し出した手にほてほて駆け寄り乗ってくる。
かわいいなぁもう! そのまま両手で掬うように持ち上げ頬ずりするとキャッキャ笑っている。
そういやマクワにもこんな時代があったんだよなーと思い出す。
チマの容姿はガラス細工みたいな角や尻尾以外は幼い頃の小柄だったマクワの姿にそっくりだ。
さらさらふわふわの髪を撫でると嬉しそうにするからもっと構いたくなる。
そんな様子を見ていたのか後ろの方からひょこっとマクワが顔を出した。
チマを撫でた流れでマクワの頭を撫でたら、ムッとした顔をされる。
オレのかわいい恋人様は子供扱いはお気に召さないようだ。
「ふふふ」
「何笑ってるんですか」
「えー? んふふ」
「もう......準備出来たんですか?」
「おうばっちし。」
そう言ってオレは小型ポケモン用の窓付きキャリーをテーブルに置く。
チマが興味津々で中を覗き込んだ。
「見てみるか?」
オレはチマを乗せた手をキャリーの中に下ろしてチマが手から降りるまで待つ。
キャリーの中にはクッションと、毛布代わりの膝掛け、
お気に入りのぬいぐるみとチマの手で開けられるサイズのジュース入りのボトルやおやつなどが入れてある。
今日はチマを連れて水族館に遊びに行くのだ。
チマはキャリーの窓に手をついて外を覗き込んだり、マクワがあやしている手の動きを真似して遊んでいる。
「中フカフカにしてあるから、チマは移動中お昼寝していてもいいからな」
そう言うとチマはキャッキャ笑いながらはしゃいだ後、キャリーを出て今度はマクワの元へ飛んでいった。
マクワも少し照れ臭そうにしながら、チマを手に乗せる。
こうして見るとなんだか親子みたいに見えるよなぁ。
さあ出発しようか。
チマをまたキャリーの中に入るよう促し、危なくないようにちゃんと入っていなよと言うと、コクリと頷いた。
アーマーガアタクシーに乗って着いたのは、水棲ポケモンの保護活動も兼ねている水族館だ。
学術研究メインの施設なので派手なショーなどは無いが、海の中が見えるため見応えは充分な場所だ。
チマは初めて見る水ポケモン達に興奮しているようで、キャリーの中から歌うようにきゅるる〜んと鳴く声がする。
マクワもそんな様子を微笑ましく見ている。
そしてオレ達はこの水族館のメインとも言える通路に差し掛かった。
チマが窓から見えるその光景を見て目を輝かせている。
そう、ここの水族館には巨大水槽があるのだ。
といっても、厳密には外が見えるガラス張りの地下通路だ、つまり海そのものだな。
魚ポケモンの大群が通過していき、それらが太陽の光を受けて輝いていた。
しばらくして、人間からみても巨大なホエルオーが悠然とガラスの前を横切っていく。
なかなかのファンサービスだが、キャリーの中からきゅんと震えた声がして、
オレが中に手を入れると、チマがオレの手にひしとしがみついてくる。
よしよし、アイツはちょっとデカくてびっくりするなぁ。
でもお前なら大丈夫だよな? チマの頭を優しく撫でる。
するとチマがきゅーっと甘えた声で鳴いて、オレの手にしきりに擦り寄ってくる。……可愛いが過ぎるぞ。
チマをキャリーから出して落ち着くのを待ってから、またあちこち見て回る。
通りすがりの女の子がマクワが抱っこしたチマを指差す。
どうやら魚ポケモンよりも、マクワの腕の中のチマに興味津々のようだ。
確かにマクワに似て綺麗な顔立ちをしているから女の子は好きだろうな。
基本的に人間のハーフであるチマは、一般人に姿を見せてはいけないのだか、
この水族館はマクロコスモス研究所系列の施設で、客はみな一般人ではなく研究者やその家族他関係者ばかりなのでチマを見られても問題ない。
女の子がチマに手を振ると、チマが真似をした。
バイバイの仕方を覚えたチマがキャリーの中に戻って、ガラスの向こうの魚ポケモン達にバイバイしている。
どうやらその仕草が気に入ったらしい。
そんなこんなで色々回った後、施設内のレストランで少し休むことにした。
関係者とその親族という客層の限られた施設にしては内部の飲食店やショップはなかなか洒落ていて、
オリジナルメニューらしいマーメイドパフェを頼んでみる。
場所が場所なのでsnsには出せないがかなり映える可愛らしいものが来たので写真に納めておこう。
マクワがテーブルの上でキョロキョロしているチマにパフェのアイスをスプーンで差し出してやるとパクッと食べた。
きゅるんと喉を鳴らして喜ぶチマ、マクワがその様子を見て嬉しそうにしている。
チマの口元についたクリームを拭ってやるとくすぐったそうに笑った。
オレも同じものを食べながら、オレからもチマに食べさせてやりつつ、二人の様子を眺めていた。
お土産屋に行くと、おもちゃや飾り物のコーナーに食品サンプルのキーホルダーや小物があり、
ちょうどさっき食べたマーメイドパフェにそっくりなミニチュアの食品サンプルがあった。
チマが目をキラキラさせているので買ってやる。
随分気に入ったんだなぁ、人形遊びに使うような小ささで、渡してやるとチマの手にちょうど良く収まる。
太陽に翳して中のジェルが光るのを夢中で眺めていた。
帰りのタクシーで、チマはキャリーの中でぬいぐるみにミニパフェの紹介をしている。お気に入りが増えたな。
今日の水族館近くには砂浜もあるから、いつか貝拾いでもしに行こうか。きっと楽しいぜ!

***
後日、チマを連れて海辺に行き貝殻集めをして遊んだ。
チマは楽しかったらしく、終始ご機嫌だった。
大小様々な貝殻を洗って並べていると、チマが大きめの貝殻を取って、ロッキングチェアみたいにして遊びだす。
「マクワ見て!貝殻を遊具にするなんてウチの子天才じゃね!?」
「キバナさん段々親バカになってきてますね?」
マクワがやれやれといった様子で言う。
そりゃこんな可愛けりゃ仕方ないってもんさ。
チマがきゃっきゃとはしゃいでいる様子をマクワと一緒に見守っている。
ふとマクワが思い出したように鞄から何かを取り出す。
貝殻と一緒に拾ったらしいシーグラスだった。
乾くと磨りガラスみたいになるシーグラス、白色のガラスはチマの角みたいだ。
チマに渡してみると絵を描くみたいに並べ出した。
上手いな、よく描けてるじゃないか。
チマは絵を描いて満足したのか、オレの方を向いて手を伸ばしてくる。
抱き上げてやるとしばらくうとうとした後眠ってしまった。
オレはチマを籠ベッドに寝かせて、テーブルに描かれたシーグラスの絵をポラロイド写真に収め、テーブルに置いておく。
チマが起きたら写真を見せてあげよう。
「片付けないんですか?」
「んーまあ、洗った貝殻とか乾かしてる最中だし、明日チマが起きてから一緒に何かかわいい箱でも用意してお片付けレッスンしようかなと」
マクワがクスクス笑う。
「キバナさん本当子煩悩のパパみたいになりましたね」
「そうさチマはオレとオマエの子みたいなもんだ」
「はいはい」
マクワが苦笑する。
次の日の朝、チマが目を覚まして写真を覗き込む。
チマは不思議そうな顔をしていたが、やがて納得したようでキャッキャ言いながら喜んでくれた。
チマが喜ぶならいくらだってやってやるよ。
大事に育てていきたいと、オレはまた誓ったのだった......

「......っていう夢を」
「また見たんですね?」
「ハイ」
「どんだけ夢の中のその子に会いたいんですか」
「オマエを好きになればなるほどチマにも会いたくなるよ」
マクワがしょうがないなぁといった顔で笑う。
オレは照れ隠しに頬をぽりぽりと掻いた。
「......夢の中の僕ってどんな感じなんですか?」
「うーん、性格とかは基本的になんも変わらんな。でも夢の中のオレ達は」
「うん」
「なんていうか、恋人っていうより完全に結婚してる感じだった。へへへ」
マクワが顔を赤らめる。
「……えっと……」
「うん?どした?」
マクワがもじもじしながら言う。
「それってつまりその、将来的な話ですよね?」
「……オマエはそう思ってくれてんの?」
マクワの顔が真っ赤になった、オレも言っておきながら照れくさい。
「ええと……その……」
「うん」
「す」
「す?」
「水族館!水族館行きましょう今度!!」
「えっ!?」
「いや、その、えっと、ゆ、夢で見たんでしょ?だから……」
「ふふ、そうだな、行こっか」
オレはマクワの頭をわしわしと撫でた。
マクワは恥ずかしそうにしていたが、どこか嬉しそうだった。
その顔がとても愛おしくてオレは思わずマクワをぎゅっと抱きしめたのだった。