夢見るたまご -相棒との出逢い-
きゅるる……と何だか神妙な声色の鳴き声を、テーブルの上で小さくてキュートな手乗りサイズの生き物が発している。
こいつはチマ、パートナーのマクワの髪が偶然ポケモンの卵の孵卵器に入り込み産まれた人間とドラパルトのハーフだ。
ポケモンの研究機関に許可を貰ってうちで育てている。
服を買った時についてくる付属の当て布が裁縫箱に溜まっていたので処分しようと思っていたところ、
チマが仕切りにその布の端切れに興味を示すので与えてみたら、
端切れを真剣に見比べかれこれ15分ほどテーブルの上の端切れの山の上で何かを考えこんでいる。
大きさや布の柔らかさを比べて分類もしだした。
と、急にチマが立ち上がり、ふわふわと飛んでは居間の隅っこに置いていた空き箱に端切れをせっせと運び……
あれ?これ巣作りしてる?
「ヘイ、ベイビー。 オリジナルの巣を御所望かい?」
きゅんとチマが鳴く。
巣作りの習性があったなんてなぁ、それだったらこんな半端な端切ればっかじゃなくて良さげな材料を見繕ってやりたいな。
オレはカラーボックスの段を一個空きにしたところに先程の箱を設置して、
分けられていたグループ順に一枚一枚端切れを渡してやるとチマがせっせと敷き詰めていく。
「それだけで足りる?」
端切れを全部入れても大した量にはならない。
チマが首を傾げている。
「明日お土産に何か材料を買ってきてやるよ」
チマが嬉しそうにオレを見た、よしよしかわいいなぁ。
翌日、仕事帰りにデパートの手芸店でチマの巣に使えそうな素材を買った。
帰ってチマにあげると喜んでくれて、またせっせと巣をグレードアップさせている。
うんうん、中々立派になったんじゃなかろうか。
チマでもオンオフが出来るようにおもちゃのライトもあげた。
けれど、巣を作っても寝る時は必ずチマ用のベッドを使うし、巣を使う様子はあまり見られない。
初めはそういう遊びかと思っていたが、巣が出来たら満足という様子でも無い……これはまさか。
「仲間が欲しいのかな」
「でもキバナさん、チマは……」
そう、チマは偶然ドラパルトの卵に人間の遺伝子が混ざった人とドラゴンのハーフ。
同種族がいないのだ。
マクワは寂しげな表情をしてチマを見つめる。
「……なぁ、同種が存在しなくとも、新たに生み出せる可能性はあるよな?」
「キバナさんそれは……」
「いや、わかってる。 チマだってイレギュラーなのを特例で育てる事が許されてるだけだし、必ず遺伝子融合が成功するとは限らない。
でもオレ明日、マクロコスモス研究所に行ってちょっと聞いてくる」
マクワが複雑そうな顔をする。
「ぼくにはなんとも言えません。
ただ、もし本当に新しい個体が生まれるなら、チマにとっては喜ばしい事かもしれませんね」
次の日、仕事を定時で終わらせ、マクロコスモス研究所に行き、チマの誕生からずっと世話になっている研究員に相談した。
「確かに出来ない事はないでしょう。
でも、前回のように卵の遺伝子融合を素人の手に委ねるのは憚られますし、
卵を用意するという事は意図せず親から卵を奪う懸念が出てくるわけで…… そうですね、条件があります」
「それは?」
「育児放棄されたものと確信できる卵と、キバナさんの組織をこちらにご提供下さい。
研究所としては遺伝子融合個体の育成も立派なデータとなりますからね、一応メリットはあります。
生まれた個体は診断の上問題が無いと見做されれば、チマちゃん同様育てていただいても構いません。
今のところ問題なく育成されているようですし、それを評価してのことです。
くれぐれも親ポケモンから奪わずに……それが第一の条件です」
「わかりました。お願いします」
「あぁそれと、実施されるならチマちゃん同様この件にも守秘義務を課します。ご了承頂けますね?」
「はい」
「最後にもう一つ」
「?」
「生き物ですから、無事産まれたところで相性が良いとは限りません。
……承知の上かとは思われますが、それを踏まえた上で命に責任を持ってください」
「わかりました」
それからオレは、ワイルドエリアの警備の仕事が回ってくる度に、
親からはぐれた卵がどこかに無いかいままで以上に目を見張らせた。
そしてある日、鍾乳洞の裂け目の奥に落ちていた冷たくなっている卵を発見した。
時間は夜中で研究所は閉まっている。急いで孵卵機に入れて温め始めるが、孵卵器の中の卵の温度はどんどん下がっていく。
「キバナさん、もうその卵は……」
マクワが止めようとする。
オレは孵卵器から卵を取り出し必死に温め続けた。
「大丈夫だ」
チマやポケモン達を先に寝かせて、マクワと二人で卵を一晩見守っていると、まだ油断は出来ないが温度が安定する。
オレは卵を孵卵器に入れ、研究所に持って行った。
研究員に卵を渡してその場で組織採取をする。
「卵の状態からして上手くいく確立は半々でしょうか。
しかし応急処置は悪くなかったですよ……ところで、卵のスキャンは」
「あっ、やってないです」
「どれ」
研究員が卵にポケモン図鑑のスキャンの光を翳すと、結果は
「……オンバーンの卵、ドラゴンタイプですね」
「おお」
これは……アリなんじゃないか?偶然にしてはチマと条件が近い。
「では早速」
研究員が機械を操作すると孵卵器に先程の組織から抽出された遺伝子が卵に注がれ、
卵がチマの時みたいに手のひらサイズに、ゆっくりと縮んでゆく。
が、色は少し違った。
トパーズのような金色に近い黄色の卵が孵卵器の中で揺れている。
「孵化まではこちらで面倒を見ますので」
「よろしくお願いします!」
オレは家に帰って、マクワとチマに報告をする。
チマの方は不思議そうに首を傾げていた。
後日、研究所から連絡が入り、オレとマクワはチマを連れて研究所へ向かった。
着いた頃にはもう孵卵器の中の卵にヒビが入っている。
オレ達は卵の前に集まって、誕生を見守る……
上手く融合出来ていない状態で産まれる可能性もあると言われ緊張する。
だがそんな心配は他所に、殻を破って出てきたのはオレそっくりの五体満足な手乗りサイズの生き物だった。
オンバーンの卵が元であるだけあって、背中に翼がある。
マクワより少し幼いチマ同様、オレの子供の頃みたいな容姿だ。
「おめでとうございます!成功しましたよ」
研究員の声を聞いて、オレは思わず泣きそうになる。
「キバナさん、ぼくにも見せてください」
マクワと、チマを抱っこしている研究員に見せると、
ずっと目をつぶっていた小さなオレがちょうど最初に目にしたのがマクワだった。
これは刷り込みでマクワを親だと思いそうだな……
「初めまして」
マクワがそう言って笑いかけると、小さなオレはマクワをしばらく見つめて何か納得したような顔をし、周囲を見回してぎゃう、と鳴いた。
「キバナさん、名前どうするんですか?」
「見るからにオレを小さくした見た目だからチキだな。 “ち”いさい“キ”バナでさ」
「だから安直なんですよ」
「チマと揃えた方が良いだろう?」
「まぁいいですけど」
「お前は今日からチキだよ」
「ぎゃぅ」
「なんだ、気に入ってくれたのか?」
チキは嬉しそうな顔でまた鳴く。
その後すぐ、きゅるっと声がする。
研究員の手に乗っていたチマがふよふよと、チキの側に飛んでくる。
ファーストインプレッションだが、果たしてお互い気にいるんだろうか?
チマとチキが見つめ合って何か話し合っている。
チマがきゅんと鳴いて、チキに手を差し出すと……チキがパックリとチマの手を口に含んだ。
きゅー!?と、チマが驚いたような声を発する。
「あー、チマちゃんもドラゴンタイプですからね。懐かれたようです。
まあ見ての通りスキンシップ過多な子かもしれないので注意してあげてください」
研究員が説明している間、チキがしつこくチマの手をしゃぶろうとしたため、とうとうチマに怒られている。
おいおい、大丈夫か?この先。
「まあ、これからよろしくな」
「ぎゃう」
研究所から許可を得て、チキも家に連れて帰る。
こうして新しい家族が増えた。
チマは未知の生き物からの激しいスキンシップを浴びて、ぷんぷん怒っている。
怒っているとこ初めて見たけどかわいいな。
チマの服をシェア出来るだろうかと、とりあえず着せてみたが、チマより少し背が高いので丈は短い。
チキ用の服も必要だなぁ。
そして若干不安があったが、チキをチマと同じベッドに乗せてみると、
寝る頃には仲良くなったのか二匹で仲良くぬいぐるみを両サイドから抱っこして、川の字になって寝ている。
オレさまの遺伝子が入ってるからかな? それとも元々物怖じしない性格なのか。
「なんか……可愛いですね」
「だろ?……しかし、本当にうまくいったな」
「ええ。でも……研究所の方々の協力があるにしてもこれからの課題は沢山あるでしょうね」
「そうだな……だかひとまずはチマが寂しい思いをしなくてよくなった事が嬉しいよオレは」
「まあそれはそうですね」
マクワがくすりと笑った。
「さぁ、オレ達も仲良く寝るかぁ」
「はい」
すやすやと眠る二匹を起こさないようにしつつ、チマがひとりぼっちじゃなくなった事を静かに祝ったのだった。