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夢見るたまご  -繋がる世界-

何度も繰り返し見ている夢がある。
と言っても内容は重複しない、見る度に話が進んでいく不思議な夢だ。
チマとチキ。
訳あって親のいないポケモンの卵に、オレと、恋人のマクワ
それぞれの遺伝子が融合して生まれたドラゴンポケモンと人間のハーフ。
夢の中でマクワとオレはポケモンの研究機関に許可を貰ってその二匹をオレの家で育てている。
マクワに似ている方が、ドラパルトのハーフで名前はチマ。
オレに似ている方がオンバーンのハーフでチキ。
“ち”いさい“マ”クワのチマと、“ち”いさい“キ”バナのチキ。
どちらも夢の中のオレが名付けていた。
二匹は手乗りサイズの小さな生き物でとても可愛い。
そんな夢を不思議な事に、マクワも見るようになったと言うのだ。

「では試しに質問しますけど、チマの好物を何か言ってみて下さい」
「チキンカレーが好きみたいだな。オレが見た夢だと、その場面はマクワが夕方に飯の支度をしていた」
「……やっぱり、直近で見た夢は、ぼくら同じ内容を見ていますよ」
「あのさ、ポケモン絡みの現象で違う世界から人やポケモンが現れたり、世界が複数存在するとかいう話あるだろ?」
「あれは……」
「ムゲンダイナやザシアン、ザマゼンタみたいな例を見ればあり得なくも無くないか?」
「並行世界の自分達がそれぞれの遺伝子を持ったポケモンハーフの二匹を実際に育てていると?」
「そう、オレ達はそれを夢で見ている。つまり、夢の中で会話してるのは向こうの世界のオレ達だって事さ。
オレらはずっと、平行世界のオレ達が手乗りサイズの自分の子みたいな存在を育てているのを眺めるだけの立場でいたワケだ」
「はあ」
「で、まあ“夢”だからなのか、見ている間はそれを自分自身の体験のように感じてしまう」
「なるほど……不思議ですけど、話としてはまとまりますね」
「だろ? つまり、今も一緒に寝るとあの世界を覗けるのかも」
試してみる?とオレが聞くと、マクワが頷いたので、まだ昼だがオレ達はベッドに入り、
チマとチキのいる世界がまた見れるか確かめる事にした。

マクワの手を掴んでしっかり握る。そしてゆっくり目を閉じると意識が吸い込まれるように遠退いた気がした。

***
目を開ければ場所はオレの家の居間で、目の前には手乗りサイズの二匹の生き物がいる。
やっぱり、夢の中の住人にはオレ達は見えないらしく、台所の方に夢の世界の方のマクワが居るが、
時折チマとチキの様子を眺めていても、オレ達には気付いている様子が無く見える。
オレは同じ世界の方のマクワの手を握ったままだった。
すごい、多分今恋人と夢を共有している。
こんな状態は初めてだ。
マクワと目が合い、話しかけるけど、お互い声が聞こえない。
まず喋っているつもりでも、自分の声すら聞こえない。
夢だからか? と思っていた時だった。
「チマ、チキ、おいで」
マクワの声がした。
隣にいるオレの恋人の方じゃ無く、夢の中のマクワの方だ。
台所の方からこっち、居間の方に来た。
手には、ラスクの乗った皿とミルクの入ったポットに、二匹用だろう小さなマグカップなどが乗ったトレイを持っている。
おやつタイムのようで、居間のテーブルに置かれたそれらを見て、チマがきゅるんと、チキがぎゃうと鳴いた。
向こうのマクワがそっと手を伸ばせばその手に寄り添うように二匹が擦り寄る姿は本当に可愛らしい。
「美味しい?」
「きゅー!」
「ふふっ、良かった。いっぱい食べて大きくなって欲しいな」
夢の方のマクワは優しく微笑みながらチマの頭を撫でた。
あぁもう! 可愛い!! こんなに可愛い生き物ウチにも居たらいいのに……隣のマクワを見ると、オレの意図を察したらしく首を横に振る。
わかってるさ、この世界が仮に実在する並行世界だとしても、ポケモンと人間のハーフなんてそうそう生まれないもんな。
まああくまで夢ならば、せいぜいこの可愛い生き物らを眺めて堪能するか。
おやつを食べ終えた二匹はソファーをアスレチックにして、
ソファーの背もたれの上に座ったチマがきゅるる〜と歌を歌っている。マクワはそんな二匹に持っていたスマホを向けていた。
そして何故かオレのロトムはいない。
あいつダイニングテーブルの上でオレ達より先に寝てたなそういえば。
マクワは少し屈むようにしてチマとチキにカメラを向ける。
動画モードで撮影し、チマが歌い終わるまで撮っていた。
マクワがこちらを向き、撮れたか分からないけど……と言った表情を向けるのでオレは頷いた。
夢とはいえ、こっちのマクワと声のやりとりが出来ないのは流石にもどかしいな。
ソファーに視線を戻すと、チマとチキがソファーのクッションの上でコロコロ転がりながらじゃれている。
夢の方のマクワは、ダイニングテーブルで事務仕事をしているようだ。
オレ達の姿が見えている様子は無かった。
オレは二匹に触れてみたくてソファーに近寄り、
キュルキュル、クルルルと鳴いて戯れる二匹にそーっと手を伸ばす。
なんとなく想像はついていたが、オレの手は幽霊みたいにすり抜けて、まったく触れられない。
一緒にソファーに来て見ていた、オレの恋人の方のマクワもその瞬間を見たようで、二人顔を合わせ苦笑する。
が、ふと目線をチマとチキに戻すと、なんと二匹がオレ達を見ていて、目が合うと二匹がニコっと笑ったではないか。
オレとマクワは驚いて固まってしまう。
すると今度はオレ達の体が光に包まれて、直感的に悟った。
ああ、夢から覚めちまう。
二匹と話せそうな気がしたのに……
遠くから、マクワを呼ぶオレの声がした、夢の世界の方のオレだ。
夢の方のマクワを見ると、やっぱりオレ達には気付いていないようだった。
オレと、こちら方のマクワはもう一度ソファーの上の二匹を見ると、チマとチキがオレ達に手を振っている。
うん、気付いてくれてありがとうな……また会いたいよ。
オレ達も二匹に手を振ったところで、世界は真っ白になり、夢から覚めていった。

***

「……」
「キバナさん……」
「マクワ……何か夢を見たか?」
「夢の中のぼくがチマとチキにおやつをあげていて……」
「食べ終えるとチマはソファーの上で歌っていた?」
マクワはハッとして、枕の下に埋まっていた自分のスマホを手にすると、カメラロールを開く。
そうか、夢に出てきたのは手元にあったからかも知れない
一番新しいデータは数分の動画、再生すると画面は真っ暗だが、きゅるる〜と可愛らしい声が歌っている
……これは、チマの歌?
「これ、オマエが見ていたものと同じなんだよな?俺もこれを聞いた」
「ええ同じです。夢の中でぼくが撮った動画ですよこれ。すごいですね……本当に夢を共有してるんだ……。でもどうして
「やっぱり実在する並行世界なんだよ。どうして夢を見るとリンク出来るのかは謎だけど」
それが不思議な事に、スマホの動画にまで残ってしまった。
「そういえば……知ってるか?時空の裂け目から来たりし使者、神の姿を模した輝く機械を手に……っていうシンオウの伝承。あれ向こうの研究じゃその機械らしきものが今のスマホによく似ていると言われているらしい」
「聞いたことがあるような……それに、シンオウに研究に行っていたガラルの博士が昔いたんですよね?」
「ああ、当時の研究資料の写しがナックルの資料室にもある。
つまりオレ達は夢をトリガーに並行世界とリンクして、
アルセウスの伝承みたいにこちらの世界の物質をあっちに持っていけたって事なんじゃないか?」
もう一度真っ暗な動画を見る。
聞こえる歌は確かに夢で何度も聞いたチマの声。
オレは繰り返し見た夢ですっかり愛おしく感じるようになったその声に耳を傾けていた。
「でも、今のところただ夢を見ているだけで済んでいるけど、何故それが発生するのか、
いつ起こるかも分からないのは不安もありますね」
「そうだなぁ……こっちの世界では……ああそうだ、こっちにもマクロコスモス研究所はあるんだよな」
「ありますけど……どうするんですか?」
「時空移動とか不思議な現象の理由って大体はポケモン絡みだろ?専門家なら、相談に乗ってくれそうな気がしてさ」
マクワは納得したように、それもそうかと呟く。

後日、オレ達はマネージャーに相談してマクロコスモス研究所へのアポイントを取り付け、今研究所の待合室に通されている。
「それで、不思議な現象というのは……?」
若い研究員がワクワクした様子でオレ達を見る。
オレはマクワと顔を合わせて小さく咳払いをした。
マクワはチマの歌声が入った例の動画を見せ、オレも自分達が見た夢の話をする。
研究員は神妙な顔になり、動画の入ったマクワのスマホを持って他の研究員に見せに行く。
オレ達が待っているとなにやら波形図を手にした先程の研究員と、あと二人の三人組が待合室に来て、
この音声は確かにポケモンの声でありオレ達の手持ちの声が偶然録音された可能性もあるため、
家にいるポケモンをすべて教えてくれと言われた。
オレとマクワは育てているポケモンの種類をすべて伝えると、どれにも該当しない別のポケモンである事は確定された。
「夢を調べるとすればまず、夢を見ている時の脳波を調べるのが良いかと考えられます。
寝ている時のあなた達の様子を見る必要がありますね」
「えっ!?そんなことまでするのか?」
「はい、夢は深層心理を表すとも言われていますから、無意識下で何を考えているかを知れば探れる事もあるかもしれません」

***
数日後の夜、オレの家に研究員達が来て、自宅のベッドで検査を受ける事になった。
普段の状況に近い方が検査と検証がしやすいからという事である。
夢の中ではやっぱり、オレ達はあっちのオレとマクワには姿が見えていない様子だ。
チマがオレ達に気付いて、キュルーンと鳴きながら手を振ってくる。
「チマ?」
「バチュルでも居たんじゃない?」
「だったら良いんですけど……」
「何?ユーレイだと思った?」
「べ、別に……」
夢の中のオレ達は呑気そうに会話している。
チキがチマを呼んで、チマはチキと小さな絵本らしきものを手に箱製の巣に入って行った。
二匹がよく遊んだりする場所だ。
そんな様子で何げない日常の夢を見て、オレ達は目を覚ました。
すると、寝ている間オレ達の様子を見ていた研究者達は神妙な顔をしていた。
「検査の結論から言わせてもらうと、脳波には何の異常も見られません。ですが……」
「ですが?」
「お二人の仰っていたチマちゃんとチキちゃんと思われる姿をしたアストラル体に近似したエネルギーが
お二人の周囲に出現しました。
遊んでいるように飛び回った後、あなた方が睡眠から覚醒するタイミングで消えていきました」
「アストラ……はよくわかんないけど、あの二匹がこっちの世界に来ているってことか?」
「今の状況で推測出来るのはそれですね」
「じゃあオレ達はこれからどうすればいいんだ?」
「夢を見ている時に何か変わったことはありませんでしたか?」
「特に何も無かったと思いますが……。強いて言えば、夢を見ていた時、オレ達は二人ともこの部屋にいました」
「夢を見る時、お二人は必ず毎回一緒でしたか?」
「そういえば……!」
確かに二人揃って寝ている時にしかあの夢を見ていない。
オレはそれを研究員達に伝えた。
「オレ達は夢を見ている間にあっちの世界に行ったって事なのか?」
「その可能性もありますが、どちらかと言うと夢を媒介して二匹のポケモンハーフがこちらに来ている影響で、
あちら側の生活風景を追体験していたのでは」
「なるほど、でもどうやって……」
マクワが不思議そうに頭を抱える、確かに、霊体のような姿でこちらに来ている二匹はどういう状態なんだろう?
「これは推測程度に聞いて欲しいのですが……時空に穴が開くような特殊かつ明確な事象の発生時を除けば、
次元移動が出来る存在というのは神と、その力によって呼ばれたもの、死者の霊、
そしてゴーストタイプを有するポケモンであるという説があります。
チマちゃんはドラパルトと人間のハーフでしたね」
「あ……」
「問題はチキちゃんです。オンバーンはゴースト属性を持っていません。
まあドラゴンは神性を持つという説もありますが……
今回の件に神や伝説のポケモンは干渉していないものと思われますので、
チキちゃんがこちらに来られる条件としては、臨死体験をした事があるくらいしか無いんです」
「いや……していた」
「……どうやら夢の内容についてもう少し詳しく伺う必要があるようですね」
オレ達は話せる範囲でチマとチキに関係する夢の記憶を話した。
チキが生まれる前に卵が冷たくて、向こうの世界のオレが一晩中暖めていた事も
「なるほど……この現象を確定付ける域には達していませんが、説としては今の話が有力でしょう。
ゴースト属性を有するチマちゃんと、孵化する前に死に近い状態を経験しているチキちゃんは
それにより自力で空間の行き来が出来るようになって、
たまたまあなた方の夢をトリガーにこちらに来られるようになったのです」
「でも、なんで来ているのでしょうか?」
「うーん……遊びに来ているような様子でしたね、人を襲う特性のゴーストが持つような害意は見られませんでした」
「そうですか、でも……」
「ええ、寝る度にポケモンによって時空が異世界と繋がっているというのは心配ですね。
しばらく定期的にこちらで検査を続けていく事にしましょう。
何事も無ければそれで良し、何か問題があるようなら、あの二匹か異世界のお二人にコンタクトをとる必要があるかもしれません」

***
それからというもの、オレ達の日常に変化があった。
まず、オレ達の夢の中にチマとチキが直接現れるようになった。
二匹と遊ぶ事もあった。
基本的には以前と同じく向こうの生活を覗き見る夢が多かったが、二匹はオレ達に気付いていた。
オレ達が手を振ったりすると、チマもチキも嬉しそうな顔をする。
しばらくは月一で研究員が家に来て半年が過ぎた頃、夢の影響で時空の繋がりが見られるも危険性は低いという判断になり、検査もひとまず終了となった。
「何か異変があった場合は必ず連絡して下さい」
「はい」
「分かりました」
専門家からひとまずは安全とお墨付きをいただいて、オレ達は安堵した。
「……今日もまた会えるかな」
「会えますよきっと」
夢で見た二匹の笑顔を思い出しながら、オレ達は眠りについた。
夢の中で二匹に会うことを楽しみにしながら。